サン・セバスチャン―ボルドー

家族サービスのため、妻氏がかねてから行きたがっていたサン・セバスチャン(San Sebastian)とボルドー(Bordeaux)を旅することにした。

 

同じバスク地方といっても、かつて旅行したバイヨンヌはフランスの一部であり、よくフランス語を耳にしたものだが、サン・セバスチャンはスペインの一部であり、人々の会話からはスペイン語が多く聞かれた。

 

予報では当日の天気はよくなかったのだが、「晴れ女」である妻氏のおかげか、初日の雨量はそれほどでもなく、2日目はむしろ部分的に晴れた。おかげで、ラ・コンチャ海岸で4歳児のブレロ3号はいっぱい水遊びをすることができた。

 

妻氏がサン・セバスチャンの何を楽しみにしていたかといえば、バルでピンチョスを食べることである。しかし、事前に彼女がネットで調べて目星をつけていた2つのバルは、人であふれかえっていた。「他の、もっと空いているバルで食べないか」とブレロは提案したのだが、彼女はこれを一蹴。どうしてもそれらのバルで食べたいらしかった。まあ、ほかにもそう思っている旅行者が多いから、人であふれかえっているのだろう(一体何が違うのか…)。仕方がないので、ブレロは果敢にカウンターに割って入り、ピンチョスを3つほど選び、白ワインもグラス2つ分注文した。

 

カウンターに割って入るのが難しいのは、すでにそこでピンチョスを食べている客がいたり、注文をそこでしか受け付けないからなのだが、なんとも非効率なシステムである。カウンターの一部は受取口専用にして、タブレットで注文できるようにしたらよいのではないかと思うが、しかしそういうことをすると、サン・セバスチャン特有のレトロな雰囲気が消えてしまい、東京や大阪みたいになってしまうのだろう。だからこれはこれで仕方がないのかもしれない。カウンターの向こう側にいる店員も手慣れたもので、客の会話が作る喧騒の中であちこちから注文を受け付けるが、滅多に聞き間違いや聞き落としをしないようである。むしろこの「戦場」を楽しんでいるようで、ボビー・マクファーレン(Bobby McFerrin)の「Don’t worry, be happy」を口笛で吹きながら仕事をしている店員もいた。

 

次にフランスに戻ってボルドーを訪れる。都市としてはトゥールーズのほうが大きいが、ボルドーもかなり大都市であるという印象を受けた。トゥールーズと違って地下鉄は運行していないが、そのかわりトラムがA線からD線まである。とにかくガロンヌ川の川幅が広い。トゥールーズで見たガロンヌ川もすでに大河ではあったが、下流になるとこれだけ川幅が広くなるのだなと改めて感じ入ってしまった。川筋に沿って整備されている散策路(リシュリュー通り:Quai Richelieu)も、道幅がかなり広くて気持ちのよい道である。地元民にとっては、この散策路を毎日歩くだけでかなりの気分転換になるだろう。なお、トゥールーズでは川の水は青かったが、こちらでは黄色く濁っていて中国の黄河のようである。地元ではRivière d’or(黄金の川)などと呼ばれているらしい。

 

滞在2日目に砂丘で有名なアルカション(Arcachon)に行く。アルカションまではTERで移動し、そこからピラ砂丘(la Dune du Pilat)には路線バスで向かう。それぞれ40分、30分くらい時間がかかるので、けっこうな旅である。バス停からしばらくは歩道が整備されていたが、途中からは裸足でないと進むことができないので、観光客はみな靴を脱いでいた。

 

個人的に、砂丘というものを訪ねたのはこれが初めてである(ブレロはまだ鳥取砂丘すら訪れたことがない)。ほかがどうなのかはわからないが、欧州最大の砂丘といわれるだけあって、ブレロはそのスケールに度肝を抜かれてしまった。よくまあ、こんなに高く砂が積もったものだ(大体100メートルくらい)。頂上に登ってみると背後には防砂林がどこまでも広がっていた。本当にこの国は広い。広すぎる(うらやましい)。

 

ブレロ3号と妻氏は砂丘の向こう側を海岸まで降りて、水遊びを始めた。ブレロは砂丘の斜面に自分のYシャツを敷いて、例によってその上に寝転がって傘を被っていたが、ちょうどよい角度で横たわれるのと、涼しい海風で実に快適であった。ワインクーラーがあればもっと快適だったろう(笑)。ただ、風が強すぎて、使い込んだ傘がついに崩壊してしまったのは残念であった…。帰るには妻氏もブレロ3号もこの砂丘を登り返さなければならないので、果たしてわが子にそんな体力があるのか心配していたが、がんばって独力で登り返してくれたのは意外であった。

 

ボルドー滞在最終日に、ワイン博物館すなわちシテ・ドゥ・ヴァン(la Cité du Vin)に行く。非常に美しい近代的な建築物である。パリに拠点を置く建築会社の設計によるもので、これはAnouk LegendreとNicolas Desmazièresという2人の建築家が主宰する会社のようだ。博物館の中には様々なワイン関連の展示があり、入り口で受け取ったヘッドホン付の感知器を展示物の所定の箇所に近づけると、説明が流れヘッドホンで聞くことができる仕組みになっている。個人的には、ワインそのものの歴史やキリスト教とワインの関係についての展示がとても面白かったのだが、ブレロ3号がひっきりなしに話しかけてくるので、ゆっくり展示をみるどころではなかったのが残念である(係員の方がブレロ3号にもヘッドホンを手渡してくれたのだが、感知器を近づけると音が出るのが彼にとっては楽しいらしい)。

 

展示を見た後はエレベーターで最上階まであがる。ここで訪問者はワインの試飲ができる。テラスというかベランダに出ることも可能で、ボルドーの街を一望しながらワインを飲むことができる。楽しかったけれども、これで一人22ユーロはちょっと高い気がするなあ。午後にはトゥールーズに帰るので、時間がなくトライしなかったが、頼めば2杯目、3杯目と試飲できたのだろうか。